分科会J



現代社会における生命倫理

〜医療の光と影〜


岩崎 梨奈


科学の進歩と人類の幸福とはイコールであろうか?

今日,科学は急速な進歩を遂げている。医療分野においては,様々な病気に対する治療法が日々確立されており,それらに苦しむ多くの人々が命を救われている。そうして私たちは新たな形によって今まで得難かった「幸せ」を手にすることができるようになった。その中で,私たちは進歩する医療技術の恩恵により,このような光の部分に目が眩みがちである。しかし,その影では進歩に伴った倫理的問題が発生しているということを見逃してはならないのだ。以下に,その例を挙げる。

不妊治療・生殖技術  不妊に対する医療手段として,人工授精,体外受精,精子・卵子提供,代理母などの方法がある。これらは,第三者が関わることにより生まれてくる子供の親の定義や,卵子提供者や代理母の搾取につながる可能性があることなどが問題視されている。

安楽死  安楽死とは,QOL(Quality of life 生命・生活の質)を保ったまま最期の時を迎えたいという人々のためにつくられた概念である。これには,捉え方によって一種の殺人的要素が含まれているのではないかという問題や,生命に対する患者の自己決定権,家族の意思はどこまで優先されるのかという論点がある。

臓器移植  これは,薬や手術等の治療をしても治癒が困難であり,健康な臓器を移植すること以外に生きる道がない人々に対して行われる医療の一つである。問題としては,人間・人体の道具化や手段化に当たるのではないかといった懸念,稀少かつ有限な医療資源(医療を遂行する上で必要とされるすべてのもの)の配分の如何,富裕者が満足な医療を受ける一方で貧者は生きるために臓器を売るという格差の存在などが挙げられる。

 このような倫理的問題は国家の政治,経済,宗教,文化などが複雑に絡み合うだけではなく,個々人が抱く生命への価値観,死生観の違いにも因る。それゆえひとくくりに社会的コンセンサスを得ることは難しい。それらを踏まえた上で,この医療技術の発達がもたらした生と死に関する課題を見つめ,話し合うことでそれらを認識し,自国や個人のみでこの倫理問題を考えるのではなく,様々な国から学生が集う貴重な場において意見を共有することが,これからの未来を生きる私たちにとって大切なことなのであろう。

当分科会では以上の点を踏まえ,上記の三点を中心に生命倫理について死生観の共有を念頭に置いて話し合いたい。すべてに結論を出すというよりは,ケーススタディなどを交え生命倫理問題を身近に考えることにより,真の論点を知ることや,知識・価値観の共有を行うことを第一の目標とする。最終的には人種や国の異なる私たちの間で,命を見つめた先にある共通意識を得られるという結果になれば幸いである。

命とは,生とは何か。これに対する答えを,ともに考えていきたい。